今回はテストで使えるちょっとしたテクニックの話だ。しかし、(毎回言っている気もするが)バカにはできない。テストでは「ちょっとした」テクニックに過ぎないが、設計なんかの実務においては、なくてはならないスキルだ。
今回の記事では、学生にはぜひしっかり身につけて欲しい材料力学の相場感覚について説明しよう。
- ものごとの相場を知ってることは人生のあらゆる場面で大事
- 応力は、数 MPa 〜 500 MPa程度
- 荷重は、1 kgf 〜 10000 kgf(10 N 〜 100 kN)程度
- ひずみは、0.0001 〜 0.01程度
- なにかの寸法は、数mm 〜 数百mm程度
- 曲げモーメント・トルクは、数 Nm 〜 数百 Nm程度
- 伸び・縮み・たわみは、0.01 mmの桁 〜 数十 mm程度
- ねじれ角は、0.1(°)〜 数(°)程度
Contents
相場感って人生でとっても重要
今回説明したいスキルはずばり、相場感だ。
相場と言うと株式投資なんかをイメージしてしまうかもしれないけど、ここで言う相場は、ものごとの常識的に妥当なレベルのことを意味する。相場を分かっているかどうかはあらゆる場面でものすごく重要だ。
みんなでバーベキューをして、色々な費用がどれくらいかかったか集計して、割り勘になるように計算したときに「えーと、ひとり25円ずつね^_^」と言われたら……計算しなおせと言いたくなるだろう。
あるいは大きな声で「ごちになります!」と言うかもしれない(それが正解だろう)。計算した彼が相場を知っていれば、こんなこと平気で言うはずがない。
材料力学でも同じようなことはしょっちゅう起きている。悲しいことに、学生の答案用紙の上で、だ。よく理解している人からすれば「そんなわけないだろ」と言いたくなるような解答はそこらじゅうで見つけることができる。
つまり、今回の記事で分かって欲しいことは、材料力学で扱う物理量として「妥当なレベルの感覚」のことだ。学生に理解しやすい言い方をすると、テストの答えにはある程度の妥当な範囲というものがあるし、それと同時に答えとしてあり得ない範囲も存在する。
これを知っていれば、自分が導いた答えがどう考えてもおかしな答えだと気付けるかもしれない。見直してみると、それはクソしょうももない単位変換のミスや、単純な書き間違いによるものかもしれない。このミスに気付いたおかげでテストの点数が5点アップするかもしれない。そして、君はギリギリのところで単位を落とすことを免れるのだ。
そう考えると、すごく大事なことのような気がしてくるでしょう。実際すごく大事なんです。
材料力学における相場感覚
では、実際の問題で聞かれそうなものの相場を1つずつ説明しよう。
応力はだいたい数MPaから500 MPa程度までが材力で登場する妥当な範囲だろう。許容応力(ここまでなら負荷してもいいよ、という応力)には降伏応力を採用することが多いわけだが、一般的な鉄鋼材料(その辺に錆びて転がっているような)の降伏応力が150 MPaぐらいから300あるいは400 MPa程度までなので、これよりも大きな応力を負荷するような問題の作り方は基本的にはしない。ただし、あえて材料が壊れてしまうような設定の問題の場合は、これよりも大きくなる可能性もある(が、あんまりそんなケースはないような気がする)。
もちろん多少前後するとは思うが、自分の計算した結果が0.002 MPaや150000 MPaのような感じであれば、間違いである可能性が極めて高い。
荷重は比較的幅広い可能性があるが、1 kgf〜10000 kgf(10 N〜100 kN)あたりがあり得る範囲だろうか。これよりも大幅に外れた場合は、自分の解答を疑った方が良い。
材力で扱うひずみはものすごく小さい。おおよそ0.0001とか0.001のオーダー(0.01 %とか0.1 %)ではないだろうか。大きくても0.01(1 %)程度がせいぜいだろう。
金属をちぎれるまで引っ張ると、ものによっては破断ひずみは30 %とか40 %だとか(1 mの棒が1.3 mとか1.4 mまで伸びる)ものすごく伸びるんだけど、材力では弾性変形(フックの法則が適用できる、ゴムみたいに負荷がなくなると伸びた分だけ縮んで元に戻る変形)を扱い、壊れるほどの大きな変形は出てこない。
寸法を問われるのは、例えばこんな問題の場合だ。
”許容応力が100 MPaの材質を使って、1000 kgのものを支えたい。このとき部材が丸棒だとすると、この部材が壊れないための最小の直径はどれくらいか?”
こういう問題のときは、常識的な部品の寸法をイメージすればよい。小さな部品であれば数mmぐらいで、建造物の支柱やはりのようなものであれば数百mmでもあり得るだろう。
普通に問題を作れば、答えが50 mとかになるわけがないのは理解できるだろう。ただし”最小の寸法”を聞かれているので、ものすごく小さい答えはわりとあり得るかもしれない。つまり負荷条件がものすごくマイルドなときは、部材に許される最小の寸法はすごく小さくなる。
ちなみに上の問題の答えはこんな感じだ↓
まず、登場するものの単位系を調整する。荷重は(N)に直したほうがいいので、1000 kgf = 10000 Nにしよう。
(荷重)を(断面積)で割ったものが(応力)なので、これを変形して\begin{eqnarray}(断面積)&=&\frac{(荷重)}{(応力)}\\[4pt]
&=&\frac{10000(N)}{100(MPa)}\\[4pt]
&=&\frac{10000(N)}{100(N/mm^{2})}\\[4pt]
&=&100(mm^{2})\end{eqnarray}断面形状は円形なので、このときの直径は、\((直径)=\large{\sqrt{\frac{100(mm^{2})}{\pi/4}}}\normalsize{=11.2(mm)}\)となる。
これに関しては結構幅広い可能性があると思う。結局部材の寸法と同じで、どこに使われるものかによって大きく変わってしまう。
それでも強いて言えば、まあ数 Nm〜数百 Nmとかそんなとこだろうか。もう少し大きいこともあるかもしれない。
まあこの範囲から3桁も4桁もはずれたような答えが出てきたら、疑っていいと思う。
これも元の部材の寸法(特に長さ)によるので、なんとも言えない。
伸びや縮みはものすごく小さいので、0.01 mmの桁から数 mm程度までがあり得そうな範囲だろう。これから大幅にはずれた場合は何かしら間違っている可能性がある。
たわみとは、はりの曲げによる変位のことだ。これは引張による伸びと比べると大きい値になりやすい。とは言っても、考えられる範囲は、0.1 mmの桁から数 mmか数十 mmぐらいかと思う。
これも同じく元の部材の寸法(特に長さ)によるが、まあおおざっぱに言って0.1(°)から数(°)程度だと思われる。
まとめ
今回説明したような相場感を知ってるかどうか、気にしてるかどうかで、本当ちょっとした単位換算のミスみたいなものを防ぐことができる。
本質的な解き方が間違っていない(ある程度自信を持って解いた)のであれば、単位変換や公式を使う過程で間違ってしまった可能性が高いので、その辺を見直してみよう。
- ものごとの相場を知ってることは人生のあらゆる場面で大事
- 応力は、数 MPa 〜 500 MPa程度
- 荷重は、1 kgf 〜 10000 kgf(10 N 〜 100 kN)程度
- ひずみは、0.0001 〜 0.01程度
- なにかの寸法は、数mm 〜 数百mm程度
- 曲げモーメント・トルクは、数 Nm 〜 数百 Nm程度
- 伸び・縮み・たわみは、0.01 mmの桁 〜 数十 mm程度
- ねじれ角は、0.1(°)〜 数(°)程度