自由体の考え方を理解できているだろうか?自由体の考え方をしっかりとマスターできれば、8割方材力をマスターしたと言っても決して言い過ぎではないように思う。そのくらい自由体は大事だってことだ。
ここでつまずいたせいで、これ以降がよく分からないという学生は(自分では気付いていないかもしれないけど)本当に多いと思う。
今回の記事では、自由体の考え方、自由体図の描き方を徹底的に分かりやすく解説したいと思う。これは、材力を学ぶ人なら絶対に避けては通れない道だし、必ず一度目を通してみてほしい。
- 「内力」は見えない・「外力」は見える
- 材料の応力や変形を考えるために重要なのは「内力」
- 材料をある場所で切って自由体として切り出して初めて、切断面に作用する「内力」が見える
- 手順に従い、正しく自由体を描くべし
- 自由体を考えることで、内力の伝わり方の全体像を理解することが重要
Contents
自由体って何のためにあるの?
まず自由体図が何たるかを考える前に、「内力」と「外力」について触れたい。
外力というのは材料の外部から加えられた負荷のことで、材力の問題で言うと初めから図に描かれている力やモーメントのことだ。(ここで言う負荷とは力だけでなく、モーメントも含まれる)
一方、内力とは材料内部に伝わる負荷のことで、はじめは見えていない。また、隣接する(接続されている)物体間に相互に作用する負荷も内力だと言えるだろう。
「外力」は外部からある特定の1点に作用する負荷であるが、一方「内力」は材料内部を隣へ隣へと伝わっていく力なので、材料内のいたる所に存在する。まずこのことをよく理解しないといけない。
分かりやすい例という訳じゃないが、こんなことを考えてみよう。上図のように3人の人間が連なった構造体があり、一番下の人に重りが繋がれているとする。一番下の赤い人の足が引っ張られており、これがこの構造体にとっての外力である。
赤い人が重りから引っ張られるのは当然だけど、ピンクの人と青の人だって楽チンな訳ではなく同じように引っ張られる。赤がピンクを引っ張り、ピンクが青を引っ張る訳だ。このように隣の人(要素)に順々に伝わっていく力が内力だ。
さらに細かく見ると、この人たちの足だって胴だって腕だって同じ負荷を受けているはずだ。このように内力は、外力に起因して材料内部に伝わっていき、ある特定のどこかにある訳ではなく(場合によっては形を変えながら)材料中のいたるところに存在する。材料内部でもこれと同じようなことが起きている訳だ。
材料にどんな負荷(つまり応力)がかかっているか?材料がどれだけ変形するか?壊れるかどうか?みたいなことを考えるためには、この内力の伝わり方を正確に把握する必要がある。
では、そんな超重要な内力がどんな大きさでどんな風に伝わっているか知るためにはどうしたらいいだろう?
見えていない内力を見るためには材料を切る必要がある。ある場所で材料を切って初めて、その切断面に作用する内力を見ることができる。材料をある部分で切って取り出したものを「自由体」と言うわけだ。自由体として切り出して初めて内力を図に描くことができ、内力の大きさやその種類を考えることができる。
このことを真に理解せずに(もしくは軽視して)材料を切らずに自由体図を描いたつもりになってる学生は本当に多い。そういうことをすると、たまたま上手くいくこともあるが少し難しい問題に当たったときに混乱すること請け合いだ。
自由体図を正確に描くことができないということは、内力が理解できないので、応力も変形も何も分からないことになってしまう。自由体の考え方が理解できないと材力は始まらないのです。
内力を考えるためには、必ず材料をどこかで切って自由体を取り出す必要がある!
自由体図の描き方と超単純な例
少し面倒に見えても、正しい手順で正しい図を描くことが極めて重要である。下手に自己流で適当な絵を描くことは絶対にやめてほしい。
では正しい手順を見ていこう。
大事なことは、自分が知りたいものがある場所で切断することだ。切り方は自由なのでどこをどう切っても、同時に複数箇所を切っても構わない。
手順を学んだところで、まず最も単純な例で具体的なやり方を確認しよう。その他の例を見たい人は以下の記事を読んでみてほしい。
では、単純に引張荷重を受ける丸棒の内部にどう内力が伝わっているか見てみよう。手順に従って進めていこう。
丸棒のある面(例えばA面)にどんな応力が作用しているかを知りたければ(図①)、まずAの面で丸棒を切断し、自由体として取り出す(図②)。さらに、もともと作用していた外力はそのまま書き込む(図③)。この状態では自由体は外力の方向に飛んでいってしまう(平衡条件が成り立たない)。
なので、外力に釣り合うような力がどこかに作用する必要がある。自由表面(上図で赤い線を引いてる場所)にはそもそも働いている外力以外の力は働くことはできないので、結局今切断した断面(青い面)に何か力が作用するしかない(これが内力)。この切断した面には、垂直荷重(水平方向)、せん断荷重(鉛直方向)と曲げモーメントが内力として作用する可能性がある。
図の上では(見にくくなってしまうので)描いていないが、作用する可能性のあるせん断荷重と曲げモーメントも切断面に描いて良い(図④)。最後に、この自由体のつり合いを考えると、切断面には図に黄色で描いたような垂直荷重が作用するしかなく、その大きさは外力と同じP だと分かる(図⑤)。(図④)の段階でせん断荷重や曲げモーメントを想定される内力として書き込んでいたとしても、最終的には平衡条件からこれらは作用していないことが分かるわけだ(今回の例では問題が単純すぎるので、平衡条件を考えるまでもなく垂直荷重のみということが分かってしまうが・・)。
このように自由体を正しく描き、切り出した自由体の平衡条件を考えることで初めて、材料内部のある断面(今回はAの断面)にどんな内力が作用しているかを知ることができる。
上の例ではある特定の断面(A面)に伝わる内力を求めたが、自由体を考える意味はこれだけにとどまらない。
さらに踏み込んで、A以外の断面にどんな風に内力が伝わるかを考えよう。例えば上図のようにB、C、Dといった別の断面で切った自由体を考えてみる。すると、いずれの断面で切断した場合も描ける自由体図は本質的に変わらないことが分かるだろう。すなわち、自由体の長さは変わるけど、そこに作用する内力はA面のときと同じく外力と同じ大きさの垂直荷重P が作用しているってことだ。
このことはつまり、単純な引張荷重を受ける丸棒の内部には、どこの断面を見ても外力と同じ大きさの引張荷重が内力として作用していることを表している(↓)。
自由体を考える上で、ある特定の部分の内力を知ることももちろん大事なことだが、それ以上に部材の内部にどのように力が伝わっていくか、内力の伝わり方の全体像を理解することが極めて重要だ。このことは、「引張・圧縮」ではあまり重要視されないかもしれないが、「曲げ」だとか「組合せ」の場合には特に大切な考え方だ。
まとめ
応力や変形など、材力で問われるものは基本的に「内力」を元に考えることができる。そして、内力を把握するためには自由体を使いこなさないとならない。
自由体を正しく使いこなしさえすれば、材力は決して難しくはない。ぜひ自由体の考え方を理解して材力をマスターしよう。
次の記事では、いろいろなパターンの問題を通して自由体の考え方をさらに深く説明したいと思う。
- 「内力」は見えない・「外力」は見える
- 材料の応力や変形を考えるために重要なのは「内力」
- 材料をある場所で切って自由体として切り出して初めて、切断面に作用する「内力」が見える
- 手順に従い、正しく自由体を描くべし
- 自由体を考えることで、内力の伝わり方の全体像を理解することが重要